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サプリメントトピックス 2019.09.02 胃酸が少ないと腸内環境は悪化する?─小腸内細菌異常増殖SIBOとは─

この記事の執筆者
松村 浩道 ( マツムラ ヒロミチ )

SPIC Clinic

1993年日本医科大学医学部卒業。同大学付属病院麻酔科学教室、関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)ペインクリニック科、医療法人誠之会氏家病院精神科・麻酔科などを経て2017年10月よりスピッククリニック院長。全人的な医療を志す過程で、ストレス学、東洋医学、栄養療法、温泉医学、予防医学などを研鑽し、心身相関・脳腸相関を重視した診療を行なっている。麻酔科専門医、ペインクリニック専門医、認定産業医、温泉療法医。大東流合気柔術免許皆伝。

自己紹介

患者様に寄り添う医療をモットーにしています。

目次

  1. SIBO(小腸内細菌異常増殖)
    1. 細菌異常増殖はなぜ生じるか
    2. 治療法について
    3. SIBOの予防

私たちの腸内には100兆個を超える腸内細菌が存在すると言われています。その中で小腸内に棲息する細菌の数は、大腸と比較すると通常100分の1程度です。ところが、小腸においてバクテリアが異常増殖し、腹部膨満や下痢、栄養素の吸収不良、慢性疲労などを引き起こし臨床上問題となる場合があります。

こうした状態は、小腸内細菌異常増殖(Small Intestinal Bacterial Overgrowth; SIBO)と呼ばれますが、胃潰瘍や逆流性食道炎の治療において比較的よく使われる薬の一つであるプロトンポンプ阻害薬(Proton Pump Inhibitor; PPI)の服用は、SIBOのリスクを高め得ると報告されました。つまり、胃酸が少ないと腸内環境が悪化する可能性があることがわかってきたのです。

 

SIBO(小腸内細菌異常増殖)
多くの方にとってSIBOとはあまり耳慣れない言葉かと思います。SIBOは、Small Intestinal Bacterial Overgrowthの略であり、小腸内細菌異常増殖を意味します。ここでいう細菌とは、通常は大腸には存在してもおかしくないものの、小腸で異常繁殖すると様々な問題を起こすような細菌のことです。これらのほとんどが嫌気性菌であり、小腸粘膜の炎症や吸収不良に関与しています。SIBOは、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)や腸管壁浸漏症候群(Leaky Gut Syndrome:LGS)、カンジダ症、食物不耐性などと密接に関わっていることが指摘されており、不定愁訴などとの関連が問題視されています。

SIBOを有する患者さんは必ずしも臨床症状を示しませんが、一般的に腹部膨満や下痢、機能性ディスペプシアなどを呈し、栄養素の吸収不良を起こすことが知られています。時として臨床上問題となるのが、必須ミネラルとりわけ“亜鉛”や“鉄”の吸収障害であり、これらは私たちの心身に様々な悪影響をもたらすことがあります。

亜鉛は約300種類の酵素反応の共同因子として重要な役割を担っており、酸化還元反応のほか多くの代謝プロセス(核酸、たんぱく質、炭水化物)において機能しています。亜鉛不足により味覚障害、慢性下痢、汎血球減少、皮膚炎、情緒不安定などを生じることがわかっています。また、不定愁訴を有する方々の背景には、SIBOなど腸内環境の問題が存在することが少なくありません。それと同時に必須ミネラルの不足、酸化ストレスの上昇、抗酸化力の低下などが認められる傾向があります。

細菌異常増殖はなぜ生じるか

小腸内で細菌異常増殖が起こる理由は様々ですが、プロトンポンプ阻害薬(Proton Pump Inhibitor; PPI)の服用がSIBOのリスクを高めるというメタ解析が報告されたことからもわかるように、一つには胃酸の分泌不足が挙げられます。胃酸は非常に酸度の高い液体であり、それ自体が強い静菌作用を有します。そのため、胃酸の分泌が少ないと細菌が繁殖する要因となります。また、胃酸の分泌が少ないとタンパク質が十分に消化されないまま小腸に届くことになり、これがバクテリアの栄養源になり細菌増殖の要因となります。

さらにSIBOの原因として、ストレスが密接に関わっていることも明らかになっています。ストレスが生体に加わると、視床下部─下垂体─副腎系と交感神経系を介して、アドレナリンなどのストレスホルモンが分泌されます。そして、この“ストレスホルモン”が小腸における細菌繁殖の要因となることがわかっています。アドレナリンの作用の一つとして、腸の蠕動運動を抑制する働きがありますが、それにより細菌が下流である大腸に押し出される働きが低下し、細菌が小腸で長く生息できるようになります。また、腸内での食物の停滞が発生することで、それらが細菌の栄養源となってしまうのです。

最近では、アドレナリンによって直接的に細菌が増殖することや、病原性が増強することも判明しています。また、消化管の蠕動運動障害を起こしうるベンゾジアゼピン系薬剤や麻薬などもSIBOの原因になり得ます。さらに、慢性膵炎により外分泌腺が線維化すると、アミラーゼなどの消化酵素の分泌が低下し、糖質(でんぷん)の分解が滞ります。その結果、SIBOや消化吸収不良が引き起こされる場合があります。

治療法について

SIBOの診断基準は、まだ確立されていません。しかし、上述した臨床症状に加え、空腸吸引液の細菌培養や呼気試験による代謝物の測定などにより診断が行われています。SIBOの治療には、背景疾患の治療や食事療法のほか、抗生物質が使用されます。薬剤が原因となっている場合は、中止を考慮します。食事療法としては、脂質は細菌により代謝されないため、糖質を減らし脂質を多めに摂ることが重要です。

つまり、高脂肪・低糖質食は症状を改善する可能性があります。ただし、飽和脂肪酸やω6不飽和脂肪酸の過剰摂取は、腸の炎症を誘発するとの報告もあるので注意が必要です。一方、ω3不飽和脂肪酸は炎症を抑制すると考えられています。また、胃酸不足が原因になっている場合には、食事の際にクエン酸などを摂取することで消化を助けることが症状の緩和に繋がることもあります。

抗生物質としては、腸から吸収されないリファキシミンが主に使われますが、筆者はその代替手段として、抗菌効果の高い医療用プロポリスやオレガノオイル、さらに細菌にも真菌にも効果が期待できるオゾン化オリーブオイルなどを用いています。また、乳酸菌などのプロバイオティクスもSIBOに対する有効性がすでに確認されています。

SIBOの予防

最後に、今日からすぐに始められる簡単なSIBOの予防法をお伝えします。それは「咀嚼」です。咀嚼により、物理的に食べ物を粉砕するのはもちろんのこと、唾液に含まれるアミラーゼ、マルターゼ、リパーゼなどの消化酵素の分泌を促すことで、未消化のまま小腸に到達する食物を減らすことができます。是非、今日から食事の際には十分な咀嚼を心がけていただければと思います。

 

<参考文献>

 

 

引用元「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」

URL(https://isom-japan.org/