この記事の執筆者
中島 孝哉 ( ナカシマ コウヤ )
中島こうやクリニック
九州大学医学部卒。医学博士。日本抗加齢医学会認定医療施設 中島こうやクリニック院長。 日本内科学会総合内科専門医。日本抗加齢医学会専門医・評議員。 総合診療医として地域医療に貢献する一方で、アンチエイジング医療を実践し、テストステロン、オメガ3系脂肪酸、腸内細菌に関する臨床研究を行ってきた。唾液テストステロンに関する研究では、2014年日本性機能学会賞を受賞。 呼吸法、サウンドヒーリングを取り入れ、セロトニンとオキシトシンに働きかける癒やしの医療、心のアンチエイジングを目指している。楽しくほどほどのアンチエイジングがモットー。
目次
1.高脂肪食の腸内細菌・肥満に与える影響
2.アッカーマンシア菌の働き
3.アッカーマンシアと糖尿病
4.結論
メタボリック症候群(メタボ)を防ぐ腸内細菌として、アッカーマンシア・ムシニフィラ菌が注目されています。腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)が生じると腸粘膜の透過性が亢進し、グラム陰性桿菌の細胞壁の構成成分であるリポ多糖類(リポポリサッカライド:LPS)が血管内に侵入します。リポ多糖類は慢性炎症を引き起こし、インスリン抵抗性の原因になります。
アッカーマンシア菌は、腸上皮細胞間のタイトジャンクション(密着結合)と粘液層におけるバリア機能を高める作用があるため、血管内へのリポ多糖類の侵入を防ぎます。結果として、慢性炎症によるインスリン抵抗性を改善しメタボ防止に繋がります。アッカーマンシア菌を増やすためには、水溶性食物繊維、オリゴ糖、ポリフェノールが有効です。
高脂肪食の腸内細菌・肥満に与える影響
高脂肪食を摂ると腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)が生じます。大腸菌などのグラム陰性菌が増えると、グラム陰性桿菌の細胞壁成分であるリポ多糖類(LPS)が増え、ビフィズス菌やアッカーマンシア菌が減ると、腸粘膜の透過性が亢進します。その結果、血中のLPSが増え、代謝性エンドトキシン血症が引き起こされます。
LPSは細胞表面Toll様受容体に認識され、TNF-α、IL-6、IL-1βなどの炎症性サイトカインが放出されます。そして、軽度の慢性炎症が持続します。これがインスリン抵抗性を引き起こし、メタボリック症候群や糖尿病の原因になるのです1,2)。食物繊維やオメガ3系脂肪酸,バクテロイデス属は,これを防ぐ方向に働きます。
<図1>
アッカーマンシア菌の働き
腸上皮は粘液層(ムチン層)に覆われ、腸管上皮細胞同士はタイトジャンクションで結びついています。ムチン層とタイトジャンクションは腸粘膜のバリアとして働いています。研究により、アッカーマンシア菌がムチン層を厚くし、タイトジャンクションを強化する作用を持つことが明らかになりました3,4)。アッカーマンシア菌は、高脂肪食などによって引き起こされた腸粘膜の透過性亢進を防ぐことにより、血中LPSを低下させて慢性炎症を防ぎます。つまり、メタボリック症候群や糖尿病の予防ができるのです5)。
<図2>
腸内フローラ検査においてアッカーマンシア菌が“痩せ菌”として説明される由縁は、<図2>のように代謝性エンドトキシン血症による慢性炎症を抑制することができるからです。マウスを用いた実験によると、肥満マウスではアッカーマンシア菌が少なく、高脂肪食で飼育されたマウスにアッカーマンシア菌を移植すると血中LPSが低下して体重増加が抑えられました。そして、血中LPSとアッカーマンシアの数との間には負の相関関係が認められました3)。
ヒトにおいてもアッカーマンシア菌の数は、空腹時血糖、ウエスト/ヒップ比、脂肪細胞径と負の相関関係にあり、アッカーマンシア菌が多いとインスリン感受性が高く、代謝が良い方向に向かうことがわかりました6)。
アッカーマンシアと糖尿病
糖尿病患者には、アッカーマンシア菌が少ないことが知られています7)。私どもは、2型糖尿病患者に食物繊維由来の水溶性サプリメントのグアーガムを朝夕食前に5gずつ摂取してもらい、摂取前と6ヶ月後で腸内フローラを比較しました。すると、6か月後にアッカーマンシア菌が有意に増加したのです。グアーガム以外では、メトホルミン8)、オリゴ糖3)、ポリフェノール9)がアッカーマンシア菌を増やすと報告されています。
近年、メトホルミンとアッカーマンシア菌の関係が注目されています。①メトホルミン投与中の糖尿病患者14名、②メトホルミンを投与していない糖尿病患者14名、③糖尿病ではない84名(計112名)の腸内フローラ検査を行いました。結果として、①メトホルミン投与中の糖尿病患者は、②メトホルミンを投与していない患者、③糖尿病でない者と比べて、アッカーマンシア菌やブチリビブリオ菌、プレボテラ菌、メガスファエラ菌などの短鎖脂肪酸産生菌が多いことがわかりました10)。
私どもの検討でも、2型糖尿病患者29名中、メトホルミン投与中の患者のアッカーマンシア菌検出率は55.6%、メトホルミンを投与していない患者の検出率は15.0%(次世代シークエンサー)でした。この結果からもわかる通り、メトホルミン投与中の患者のアッカーマンシア菌検出率は有意に高く、メトホルミン投与とアッカーマンシア菌の関連性が確認されました。メトホルミンの作用機序の一つとして、アッカーマンシア菌を介した作用が考えられます。
また、ヒトにおけるアッカーマンシア菌摂取ランダム化試験が実施され、『Nature Medicine』(2019年7月1日付)にWeb上で発表されたばかりです。インスリン抵抗性の肥満ボランティアに、アッカーマンシア菌(生菌または死菌)を3ヶ月摂取してもらったところ、安全性が確認されました。そして、インスリン感受性の有意な改善、インスリン値とコレステロール値の有意な低下が認められ、体重、脂肪重量、ヒップ径も低下傾向にありました11)。こうした研究を皮切りに、今後さらなるアッカーマンシア菌を用いた肥満、メタボリック症候群、糖尿病の予防や治療が進んで行くのではないかと思われます。
結論
腸内細菌叢の研究により、メタボリック症候群や糖尿病の進展において、代謝性エンドトキシン血症による慢性炎症が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。そして、アッカーマンシア菌やその細胞外成分は、腸粘膜の透過性を低下させることにより代謝性エンドトキシン血症を抑制することがわかりました11)。
アッカーマンシア菌を増やしてメタボリック症候群や糖尿病を予防するには、高脂肪食を控えて、水溶性食物繊維(こんにゃく・山芋などに含まれる)、オリゴ糖(玉ねぎ・ごぼうなどに含まれる)、ポリフェノール(ブルーベリー・大豆などに含まれる)などを摂ることが有効であると思われます。
<参考文献>
出典 「国際オーソモレキュラー医学会ニュース」